9月8日(土) 第92回天皇杯 2回戦
熊本 4 - 3 岐阜 (13:00/熊本/1,823人)
得点者:11' 武富孝介(熊本)、48' 樋口寛規(岐阜)、64' 樋口寛規(岐阜)、74' 仲間隼斗(熊本)、93' 武富孝介(熊本)、95' ダニロ(岐阜)、112' 大迫希(熊本)


120分の長い試合時間を経て、ようやく”しぶとい”岐阜を沈めました。9月といってもまだ真夏。炎天下、午後1時キックオフの試合は、試合相手とは別に、”暑さ”というもうひとつの敵と戦うようなゲームでした。 

先週KKウィングで行われた天皇杯1回戦、大津高校対Vファーレン長崎を観に行ったときも思ったことでしたが、ピッチボードもなく寂しいフィールド、観客もまばらなスタンド、昼間13時のキックオフまでにアップする選手たち…、しかも相手はJFLでもしのぎを削った同期・岐阜。何だか、走馬灯のようにあの地域リーグ、JFLの頃を思い出さずにはいられません。あの頃はこの天皇杯の舞台が、全国区に名乗りを上げる唯一のチャンスだった。だからわれわれファンも1回戦からワクワク、ドキドキして試合に臨んだ、そんな気持ちを思い出します。それは、決して単なる回顧趣味ということではなく、何かしら熊本の”原点”が思い起こされて、奮い立たされるような感じでした。

GK岩丸、FWには北嶋、ボランチに原田と吉井、サイドに大迫、CFに福王。「トレーニングも含めて彼らのパフォーマンスが良かった」からだと高木監督は言うものの、この先発の布陣は、やはりカップ戦ということでの日頃の”試合勘”を戻させるための選手起用に思えました。ただ、「前回の北九州戦でできなかったことをリンクさせて考えた布陣」という指揮官の言葉からは、組織的な守備が固まらなかった前節の反省、課題に対して、選手層の裾野を広げたい、広げるいい機会だという意図は感じられました。

対する岐阜も、ターンオーバーな感じはしない布陣。ただ、井上平が中盤に、地主園が右SBにと、ずいぶん攻撃的な選手を後ろに置いたものだという感じがします。

岐阜20120908

11分に北嶋が収めたボールを右にはたくと、上がった市村のクロスに武富が飛び込んでヘディングでネットに突き刺す。幸先よく先制。しかし、この先制点も、実は今日の長い、波乱のゲームの幕開けでしかなかったことを、そのときは思いもしませんでした。

この試合。熊本にとっての第一の課題は、前節、全く機能しなかった前線からの組織的な守備から入ることでした。元々岐阜も慎重に守備から入ったこともありましたが、序盤、熊本は主にサイドを押し込んで、そこから中を使う攻撃が機能しました。そのなかで吉井が裏を狙って飛び込んだり、原田がサイドに釣り出すプレーも。対する岐阜はなかなかボールを取りにいけない。

しかし、1点先取した熊本が、この気象条件を計算したのか、少し”省エネ”な展開を図りはじめると、井上を前目にシフトした岐阜も攻勢に転じ始めます。前半終了間際には、FKのボールに飛び出したGK岩丸が触れられず、ファーの選手が触ればあわやという場面。続く右CKからはフリーのヘディングを許しますが、これは叩きつけすぎたおかげで枠を外れてくれ、事なきを得ます。

岐阜の反撃の狼煙は後半に入ってすぐの48分でした。CKがゴール前を抜けたものの、ファーで樋口に拾われると狭いところから決められて同点に。続く64分には、ダニロがポストプレーで落としたところに、再び樋口が右から入りシュート。逆転されてしまいます。全く岐阜の時間帯になってしまう。ちょっとゆるく綱を握りなおしたら、すっかり形成を逆転されてしまったような、そんな綱引きゲームを見るようでした。

あまりの暑さの中で、観ているほうも集中力を失うような試合。熊本の選手たちにも、長さにして数十センチ、タイミングにして数分の一秒のパスミスが目立ち始める。選手間の意図が少し狂い始めている。スタンドから見ていると、明らかに藏川のところと、藤本のところのズレが目につき、岐阜に攻撃権を渡すポイントになってしまっていました。

打開すべく吉井から養父への交代。疲れの見える北嶋も仲間に代えたベンチワーク。74分、それが早々に奏功します。自陣深くからのFK。素早いリスタートから原田が放った1本のロングボール。仲間がDFの裏を取り、一瞬早くボールに触る。前に出ていたGKを越えるループシュート。交代してファーストタッチで同点にします。その後は一進一退。後半終了間際に原田の強烈ミドルがゴールを襲いますが、ポストに嫌われてしまいました。

試合はそのまま延長に突入。その前半早々、前線の3人が押し込む。バイタル左で貰った武富が中央にドリブルで切り返すと、思い切りよく右足を振りぬく。ボールはバーに当たるものの、ゴールに吸い込まれて勝ち越し点。

さすがにKKのスタンドもこれで突き放したか、と思ったのも束の間でした。岐阜はその2分後、途中交代のボランチ橋本がクロスぎみに前線に入れる。ファーサイドからの折り返しを中央でダニロに合わせられて同点。追いすがる岐阜。リーグ戦とは違って、ある意味で失うものは少ないゲーム。失点しても誰も下を向かない、取られたら取り返しに行く、そんな“オープン”なメンタルというのもこの天皇杯の雰囲気なのでしょうか。その執拗さは恐るべきものでした。

そして延長戦も後半、そろそろPK戦も頭をよぎり始めたころ、カウンターから大迫が抜け出しGKまで交わす。しかし、角度のないところから放ったシュートは、カバーのDFも触ることなく、ゴールを反れて行く。「GKをかわした時にDFが戻ってきているのが分かったので、少し浮かしたら回転がかかってしまった」と頭を抱える大迫。腰を浮かせかけて、再び席につくスタンドのファン。

しかし、最後の最後に試合を決めてくれたのは、「でも、まだチャンスはくると思っていました」と諦めなかったこの男のすぐ後のプレーでした。左サイド、途中から入っていた片山のクロスに対して、中央の選手には合わなかったものの、大外に構えていたのは大迫。今度こそボレーで打ち抜く。難しい角度から快心のシュートは岐阜のゴールに突き刺さる。その瞬間、スタジアム中は歓喜の坩堝に化しました。見届けたファンにとっても暑さと戦う、長い長い試合。勝利という結果が、その苦労をいっぺんに吹き飛ばしてくれました。

点の取り合いになったゲーム。90分のリーグ戦のレギュレーションなら引き分けでした。120分にして雌雄は決したものの、やはりリーグ戦での引き分けの多さの訳を思わせます。延長時間も、ホームにあったからこそ勝ちきれたのではないかとも思わせる。

そんななか、指揮官は2失点目に関して特に厳しく言及しました。
「ダニロにボールが入った後のセカンドボールに対して、完全にボールウォッチャーになった」「絞る、戻るスピードもなかったかもしれない。ああいうプレーをしていくと、どのチームに対してもディフェンスはできない。なのであのシーンは、僕は納得できない」と。

久しぶりにDFラインに入った福王は、「2点目は僕も含めて切り替えが遅かったのもあって相手のサポートに誰もついてきてなくて」と反省する。さらに次の3回戦に関しては、「ピッチに立ちたい気持ちはあるし、リーグ戦にも絡んで、毎日のトレーニングから意識していこうと思います」と、謙虚さを失わない。”使われ”なければ実力も発揮できない。しかもその機会は、毎日の地道なトレーニングからしか訪れない。なんとも厳しい世界。カップ戦では、そんなチーム内の競争社会も垣間見せます。

攻撃に関して言えば、「今日はタケ(武富)も(仲間)隼斗も、(大迫)希も点を取ってくれましたし、そういう選手が取ってくれたということは、大きな収穫」と指揮官が言うとおり、若手3人の活躍が眩しいほどに輝く。特にこの日、スタメンから走り続けた大迫が、延長まで引っ張られ、完全に足を攣っていたにも関わらず、最後の最後に決勝点を決めた瞬間は、うれしさを通り越して感動さえ覚えました。

とにかくファンもともに暑さと戦った120分。熊本は3回戦に駒を進め、J1の首位を走る仙台への挑戦権を得ました。アップセットを狙う。これが天皇杯の醍醐味です。

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