9月23日(日) 2012 J2リーグ戦 第35節
熊本 3 - 1 福岡 (15:04/熊本/8,152人)
得点者:2' 高橋祐太郎(熊本)、22' オズマール(福岡)、45'+1 北嶋秀朗(熊本)、63' 北嶋秀朗(熊本)

華のある選手だな。そう思いました。

これだけの実績のある選手に対して、移籍後初得点をあんまり騒ぎすぎるのも失礼なのかも知れないとは思いましたが、それでも、かなり、相当に長かったなと思う。故障のときは、これは難しいかもしれないなどと思ったりもした。そして自身のブログに綴られた「決意。」という文章。その心境を思えば、約束したそのゴールを”有言実行”した後に吠えるその鬼気迫るような目つき、そこに抱きつきにいった藤本のまた同様な眼差しを見て、心揺さぶられない赤いファンはいなかっただろう。涙ぐんでいるサポーターさえいました。

福岡20120923

アクシデントからの途中出場でした。開始早々のCKから見事な高さでヘディングゴールを決めた高橋祐太郎が、前半のなかば、突然倒れ込んでバツ印が出る。その直前には、福岡に押し込まれて、末吉のプレスを嫌った養父のバックパス。それは皮肉にも綺麗な”スルーパス”になって、オズマールに押し込まれ同点にされていました。

前節と同じように齊藤、高橋でゲームの流れを作っていった熊本。ミスからの同点弾。そこでの予期せぬアクシデント。スタンドのファンだけでなく、ピッチ上の選手たちにもまん延しそうなそんな嫌なムードを払しょくしてくれたのはこの男でした。ある意味、待ち望んでいたように割れんばかりの拍手が、ピッチに登場した彼を包みました。

顔を上げた選手たち。藏川が右サイドを突破してクロス。北嶋が飛び込むもGKに捕獲される。「違う。もっとニアだ」とわれわれは思う。そう言う北嶋の心の声が聞こえそうな気がして。

「自分自身は3人抜いて決めるような選手ではなく、味方のアシストが必要なので、自分の好きな形でのゴールを決めるには、タイミングを逃さないことやクロスボールの質も重要」。この試合後のインタビューでも、そう北嶋は言う。そのために、接触の多いJ2のサッカー、ロングボールが少なくない熊本のサッカーに適応するために、自分は数週間前から「10年ぶりくらいに筋トレを始めた」(J’s goalJ2日記「加入後初ゴールの背景」から)のだといいます。

このまま同点で前半終了かと思われたアディショナルタイム。“いい時間帯”でした。自陣から持ち上がったボール。武富がワンタッチで左にはたく、受けた原田がアーリーで入れる。それは北嶋が指さしたポイントでした。「GKが僕からみて右に寄ったのが見えたので」というほどの冷静さ。滞空時間の長いジャンプから高い打点のヘディングで勝越し点を決めます。美しい。そして実に北嶋らしい。移籍後初得点でした。

「拓ちゃんのクロスのタイミングと質が完璧だった」と言う。「あのタイミングを一つでも遅らさせたらDFに見つかってしまい駆け引きをしている意味がなくなる。ボールの質が低ければキーパーの体重がどっちに乗っているのかを見極める時間がなくなってしまい、ただ単にゴールを狙うだけになってしまう。結果ゴールの可能性が低くなる」。試合後の北嶋のブログ。あの一瞬にそんな判断が凝縮されていた。

後半、秋の西日を正面から受けるエンドになった福岡。それでもDFラインから飛び出したオズマールが大外から南と1対1。しかしこれは右サイドネット。今日の福岡で最も危険で厄介だったオズマールを下げて坂田を入れる福岡・前田監督の采配。

今度は左から上がった大きなサイドチェンジのボールに城後のダイレクトボレーシュート。これは南のビッグセーブ。その後も、何度か福岡の決定機を阻止した守護神・南。北嶋が決めたこの試合。絶対負けるわけにはいかない。

「熊本に来てから苦労していることやいろんなジレンマと戦っているのは見てきていたし、1つゴールが入れば流れは変わると思っていた。それだけの力のある選手なので、1つ入ればと思いながら見ていた。今日それが取れて、もっともっと期待したい」と言う南。”北嶋をヒーローにするんだ”。柏時代からの盟友が、そう一番思っていたに違いない。

「古賀のマークを外してゴールしたい」。北嶋がこの試合、もうひとつ望んでいたのは、高校時代から対戦し、柏ではチームメイトでもあった福岡DF・古賀との駆け引きでした。63分、FKのクリアを拾って熊本が縦に入れる。武富が追いかけて奪うとグラウンダーで入れた。北嶋は古賀を背にしながらトラップでターン。左足で放ったシュートはゴール左隅に吸い込まれます。

「ワンツーをもらうつもりだったんですけど」と若干不満気味だったのは当の武富。北嶋は「(武富が)パスを出した後に動いてマークをはがしてくれたことで、落とすという可能性を相手の選手も持ったと思う」と笑う。何しても、福岡・高橋泰が「個の部分、1対1のところで負けてしまうと、なかなか勝ちには結び付けるのは難しい」と言うような。それにしても北嶋のうまさが優ったシーンでした。

前節の大分ほどではないにせよ、それはそれで”経験値”から来るだろう地声の太さを感じさせたゴール裏の福岡サポーターでしたが、この3点目を喫して以降、途端に声が聞こえなくなりました。ピッチ上のチームはというと、とにかく縦に入らない。サイドからの対応可能なクロス一辺倒。後半こそ中で繋いで突破しようとする意図が見えましたが、ブロックを敷いた熊本に阻止されます。「福岡FW陣は個々に特徴があり厄介だった。そこへボールが渡る前に、パスの出し手のところで止められるかが大事だった」と言う廣井。起点となる鈴木のパスコースをどう限定するか、ということでした。

熊本は90分間を通してDFラインを高く上げ続けたコンパクトな布陣。それはDFの裏を捨てた”割り切った”戦術でしたが、齋藤、高橋、そして北嶋の前線からの守備がこれまた90分間機能し続け、その裏を突く時間と精度を与えませんでした。

試合を通してのフリーキック数は熊本15に対して、福岡が29。極端に数字が違います。別に福岡のほうがフェアプレーだったということを言いたい訳ではなく。ボールへの貪欲さ。五分五分ならもちろん、四分六分で相手ボールでも、身体をねじ込みながら、スライディングでつま先1センチでも触ろうと、果敢に寄せていった結果だろうと。後ろからでも躊躇なく行っている。もちろんボールに。よく、しつこく突っついて、絡んでいるなあと見えました。

その代償なのかケガも多い。交代のきっかけになった吉井のプレーもそう。高橋のケガも、場所的には中盤の何も決定的な位置ではないのですが、それでもマークを外すまいと集中していた結果だろうと。高橋のケガは実に痛い。前述したとおり、高橋と齋藤で作っていくゲームプランが、ここのところ奏功していただけに。

武富は、「今日はあんまり良くなかった」と言う。「ボールが足につかなかった」と。「ドリブルでも思い通りに運べないことが多かったので、それ以外でシンプルにプレーして、ディフェンスを頑張ろうと試合中に切り替えた」と。しかし2点目の起点となるシンプルなボールさばき、3点目のアシストにつながる身体をあてたボール奪取。多分、今年いちばん“良くない”どころか、彼のプレーの幅の広がり、成長を見せたゲームだったのではないかとも思えるのです。

そして齊藤。多分、終盤のピッチを見渡して、一番疲労しているように見えるけれど、監督にとって一番、替えたくない、替えられないプレーヤーになってきたのではないか。それは高木監督直伝の教えを会得してきたということなのか。”北嶋劇場”の影に隠れて、この二人が、実は今日のゲームの立役者でもあったのかと思います。

日曜日の3時キックオフ。9月下旬のKKは、日差しは強いものの、気温26.1℃、 湿度53% 。さわやかなコンディション。お昼頃から、周囲の芝生の上では、スタジアムグルメを楽しむグループが。赤も、紺色も入り混じってピクニック気分で盛り上がり、実にのどかないい景色でした。

けれどこの日のダービーには、開幕戦の惜敗のリベンジへの思い、それぞれ隠された各人の思い。そして、北嶋には全く別の次元の思いもあったような。

この熊本の新しい”赤い華”の魅力に、今は福岡の青を身にまとっているかつてのエースへの想いも吹き飛び、それを象徴するようなダービーマッチでもありました。多くのチームが大胆な夏の選手補強をするなかで、わが熊本は彼ひとりだけが”補強”でした。加入から3ヶ月近くを費やした初ゴール。しかしその間、惜しむことなく若手にその技術を伝え、不振に落ち込んだメンタルを鼓舞し、そして自ら挑戦する背中を見せることでリーダーシップを発揮した。チーム自体が変わってきていることをわれわれファンも実感している。この補強は得点や勝ち点以上のものを熊本にもたらしたのかも知れません。

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