10月1日(月) 2012 J2リーグ戦 第36節
湘南 1 - 2 熊本 (19:04/BMWス/3,986人)
得点者:43' 齊藤和樹(熊本)、75' 岩上祐三(湘南)、90'+4 北嶋秀朗(熊本)


「言葉がうまく見つからないが、これもサッカーだ」。敗戦の将・曹貴裁監督は、試合後そう言いましたが、勝者側のわれわれもまた同じ台詞が浮かびました。始終押し込んでいたのは湘南。熊本のシュート数はわずかに3本。それでも最後の最後に勝利の女神が微笑んだのは熊本側でした。

湘南にしてみれば、アウェーで2連敗し、ここまで1敗しか喫していない“絶対の”ホームに帰っての試合でした。しかし台風がその燃える状況に水を差したと言うべきか。

大型の台風17号は、湘南ホームBMWスタジアムの試合を丸一日順延するという決断をさせました。それは、昇格戦線真っただ中で、未消化試合を残したくない湘南にとっても、また、遠いアウェーの地に出直したくない熊本にとっても、最良の判断だったのでしょう。ただ、スタジアムで観戦を予定していたファンにとっては辛かった。この勝利は、そんな緊急な変更のなかでも、仕事をやり繰りしたり、宿泊を延長したりしてゴール裏に参集した赤いサポーターたちへの今シーズン一番のご褒美でした。それまで関東では勝利どころか、1ゴールすら見せられていなかっただけに、このドラマチックな幕切れ。テレビの前のわれわれでも“手の舞い足の踏む所を知らず“状態。現地ではどれほどのものだったのか…。感動が際立ちました。

湘南20120930

「うちは前に出て行く力があるので、全員が守備の意識を持てばその攻撃力が活きてくる。引くのではなく、守備の意識を高めて連動することが大事」。
戦前、湘南の基本戦術をそう語っていた曹監督。確かにいいところで奪って、一瞬の切り替えと、スピードとパワーで90分間押しまくる。そんなサッカー。よく練習しているんだなあと感じさせるような序盤でした。

ただ、ほとんどシュートのチャンスさえなかった熊本でしたが、逆に湘南にも決定的なチャンスは作らせない。

これには、それまで序盤から飛ばしてゲームの流れを作っていた高橋を負傷で欠くという熊本側の事情。そして前述したように、昇格争いのなかで岡山、岐阜に連敗してホームに帰ってきたという湘南側の事情が、ゲームプランやモチベーションと相まって、微妙に交錯していたようにも思えます。

湘南のスタイル、怖さは、監督の言葉にもあるように「連動」。確かに後半の失点前後の後から後から追い越してくる攻めには、なかなか対応が難しいものがありました。

ところが前半、象徴的に映ったのは高山。持てば、そのスピードを生かして自分で持ち上がり、フィニッシュまで行ってしまう。それはそれで迫力があるのですが、言ってみればとても単調で、守る側は対応しやすかったのではないか。キリノも同じ。自分が受ける、自分が突破する存在感はさすがで、アクセントになってはいましたが、逆に連動の足かせになっていたようにも見えた。「個」が自然と滲みでて、「連動」を邪魔しているような展開。これも2連敗のメンタルの見えない影響だったのでしょうか。

熊本の2得点は、いずれも湘南イレブンの膝をガックリと折るような、絶妙の時間帯でした。

前半も終了間際、廣井がヘッドで大きく跳ね返したハイボールを、前線でDFと競った齊藤が強引に自分のものにして、次にカバーに入ったDFにも競り勝ってゴールネットを揺らす。CFらしい仕事。こんなにも強く、うまい選手だったか。前節のエントリーで“替えたくない、替えられない選手”になってきたと表現しましたが、「課題としているルーズボールから、そして50-50のボールからマイボールにする形ができたと思うので、今後ずっと忘れないでやってほしい」という高木監督の評価と、「泥臭い」という褒め言葉を貰ったみごとな先制ゴールでした。

対する湘南の決断も早かった。ハーフタイムには2枚替えで島村と坂本が入ってくる。18分には消えていた菊池に代えて宮崎。そうした組織的な修正、圧倒的なパワーで押し込み始めると、熊本は自陣にくぎ付けにされてしまう。CKの流れからPKを与え同点。その後も、湘南の猛攻を凌ぐのに精いっぱいの状態でした。

客観的情勢から言っても、交代で退くキャプテン藤本の手のしぐさからみても、これは引き分け狙いかと思わせました。「アウェイで湘南相手にドローも悪くはないので、選手にはそれを頭に入れてプレーするように声を掛けた」。藤本も自身のブログでそう明かしている。

さて、ベンチの思いはどうだったのでしょうか…。

「ボールを持てる選手なので、できるだけはたかずに自分でボールを持って行ってくれと。ボールを保持したなかで時間をつくることをやってほしい」と言って送り出した五領。市村には「とにかく前が空いたら仕掛ける、細かいパスよりもフィニッシュで終わったり前にどんどん出ていこう」と伝えた。その二人と、“替えられない”選手・齊藤を下げてまでも残した北嶋が、最後の最後に歓喜をもたらします。

アディッショナルタイム4分も消化しそうな時、相手GKからDFに向けて転がされたボール。これを見逃さなかった五領。果敢にチェイスして奪うと、市村に素早く渡す。市村は指揮官の指示どおりに仕掛けDF1枚をまた抜きで置き去りにすると、思い切りよくミドルを放つ。ボールはDFに当たり角度を変えるもののバーに嫌われる。その跳ね返りに準備していたのは北嶋。そのヘディングシュートが無人のゴールに突き刺さる。呆然と立ち尽くす湘南の選手たち。

あの場面、残っている五領が視野にありながら目の前のDFにボールを渡した相手GKのミスか、それとも、やや緩慢な判断で五領に奪われた相手DFのミスか。イメージは違うのかも知れませんが、これも指揮官が言った「どこかしら薄いところを突いていける可能性」と同じことなのかも知れない。

市村のシュートがバーに嫌われて逆サイドにこぼれた瞬間は、今までの熊本だと、ここには誰もいないのが普通の景色でしたが、そこにはあの男が待ち構えていました。オフサイドポジションからよく戻っていたし、こぼれる位置によく留まっていたし。

「こぼれてこいと願っていました」と言う北嶋。それも含めてゴールへの嗅覚と表現していいのかも知れません。

しかしこの男は、それ以上に、「相手のリズムのときにボールを大事に扱う空気が足りない。それでは苦しい時間が苦しいままになってしまうので、“相手のプレスの矢印をそぐようなパスやポジション取り”などができるようになっていかないといけない」と、イメージしやすい言葉使いでチーム課題まで整理してくれています。齊藤の開眼も、北嶋が加入して以降のような気がする。怪我だけはしてくれるな。この救世主に対して今、切にそう願います。

初めて敵地で踊られる「カモン・ロッソ」の勝利のダンスを、勝利監督インタビューの画面越しに微笑ましく眺めながら、この白星は偶然や幸運でもなんでもないと思いました。好調の要因はと記者に問われて、「諦めずに最後まで頑張ってくれたことが逆転に繋がったと思う」と答えた高木監督。それは心細い敵地で、負けても負けても次の試合に向かった、諦めず声を枯らし続けた(関東を中心にした)アウェーサポーターに対する言葉のようにも。凌いで凌いで、最後まで諦めていなかったのは、決して選手たちだけではなかっただろうと思いました。

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