10月7日(日) 2012 J2リーグ戦 第37節
山形 0 - 2 熊本 (18:04/NDスタ/6,541人)
得点者:10' 武富孝介(熊本)、23' 武富孝介(熊本)


完勝でした。昇格戦線の只中にある山形が相手で、という理由だけでなく、その内容、経過、結果、いずれを見ても、今シーズン、これまでで最高のゲームだったのではないかと。前節・湘南戦のような劇的な最後ではなかったものの、スカウティングから戦術の構築、練習、コンディショニングというところが、描いたとおりにできていた、そんなゲーム。

いやいや。練習という面では、前節が台風接近で一日遅れだったことから間は短かった。コンディショニングという面では、リーグ中で一番遠い山形への長時間移動。飛行機を乗り継ぐなかで、空港に3時間もの滞在を余儀なくされたアクシデントも。しかし、メンタルにも影響しそうなそんな”マイナス”も、チーム状態を妨げる要因にはならなかった。それほど、チームは今”勢いがある”と言えるのでしょう。

山形のシュート数は前半2本、後半は1本。熊本は前半7本、後半8本。何よりもこの数字が物語るのは”抑え切った”ということ。リーグでもダントツ1位のシュート数を誇る山形相手に崩されなかった。シュートを打たせなかったという事実。90分間の守備意識の集中を示している数字とも言えます。勝利という結果ももちろんですが、長いシーズンを戦ってきて、この最終盤に来て、こういう戦いができるようになったことに、ファンとして確かな手ごたえを感じています。

山形20121007

前節のエントリーで“怪我だけはしてくれるな”などと書きましたが、皮肉なことに、再び戦列から離れることになってしまった北嶋。試合前から「違和感」を感じつつも闘っていたのだと言います。そして得たあの決勝点でした。

その”得点源”北嶋の不在を埋めて余りあったのが、この日の武富でした。2列目から1列上がった彼が、本来の持ち味を十分に発揮した。やはりこの男はゴールに一番近いところが似合うのかも知れません。

5試合勝ち星のない山形のホーム戦。それは前節の湘南と同じ状況。まるで勝利という獲物に飢えた野獣のように襲いかかってきました。その勢いに怯まず、”凌ぐ”という姿勢も前節と全く同様。高木監督が「ゲーム自体は、立ち上がりがひょっとしたらすべてだったのかなと思います」と振り返るように、「非常に怖い時間帯、耐えなきゃいけない時間帯があるなかでも、よく耐え」た。違ったのは、先制点の時間帯の早さでした。

10分、自陣右サイド奥から五領が浮き球のパス。齋藤が付いていた相手を振り払って前を向く。アーリークロスの先は武富。DFの死角に入った武富が、ヘッドで叩き込みます。

「前半は終始、俺らセンターフォワード2人と相手のセンターバック2人が2対2みたいな、マンツーマンみたいな感じだったので、一人かわせればそこでフリーになるというか、1対1の状況で勝てたり奪えればチャンスになるのかなと思っていたので、あそこの駆け引きで裏を抜けれたと思います」と武富が淡々と振り返る。

勝利から遠ざかっていた山形。昇格ラインが徐々に遠くなるなかで、得意のホーム戦。やはり、前がかりでゲームに入ったのは当然の流れでした。

前半戦、第21節を首位で折り返した山形も、この終盤、8位、5戦勝ちなしとあっては、わずか1失点でチームが動揺するのやむを得なかったのでしょう。高く上げた両SB。ポッカリと背にしている大きな背後のスペース。しかし攻め込まなければならない。ピッチ上の選手達のそんな不安な心理。

徐々に熊本はボールを繋ぎながらアタッキングサードを襲い始めます。23分、自陣から持ち上がると、ダイアゴナルに走り込んだ五領にパスが通る。五領がPA左奥からマイナスで返す先には養父。養父のシュートはブロックされるも、そのボールを原田が左に繋ぐ。藏川から武富。武富が切り返してひとりかわすと、右45度の角度から冷静にコースを見切って打つ。シュートブロックも、GKの手も抜けて、ボールはゴールネットに突き刺さる。

武富自身が「理想のゴール」という。指揮官もガッツポーズを決めて「形も含めて非常に満足のいくゴール」と評価する追加点で、山形を突き放します。

猛攻をかけているものの、山形はフィニッシュまでいけない。凌ぎながらも熊本はシュート数を積み重ねる。それは熊本の攻守のメリハリ。奪われてからの帰陣の早さ、そして球際の厳しさをスカパー実況陣も評価する。

片山が前半終了間際に流血。五分五分もないボールに対して、強くいった結果、相手の頭とぶつかってしまった。しかし、これも象徴的なプレーではなかったかと。「球際、行くんだ」という強い意志の表れ。

サイドでの守備が強い印象でしたと記者に問われた藏川。「中に高い選手もいるし、そういう面でクロスは上げさせないように、守備を意識してやっていたのがよかった」と。文字通り強いプレーをしたなと見えました。それは”オレのサイドでは、上げさせないぞ”みたいな並々ならぬ意思が感じられるプレーぶりでした。ピッチ上に藏川が3人くらいいるような錯覚さえ。

齋藤は、やはり最後まで替えられませんでした。前線からの守備、追い込み方の動きで、何かつかんだものがあるのではと思わせる。決して速いとはいえない脚。しかし、スルスルと距離を詰めて、体を寄せていくテクニック。そして攻撃に転じては、連動を感じさせる動き出し。周りの使い方、使われ方が分かってきたような。判断の連動。

2点をリードしての前半35分あたりのボール回し、後方から中盤にかけて実に30本のパスがつながって、最後はうまくいかなかったものの、五領へのくさびをチャレンジ、通ればチャンスという展開まで持って行ったシーン。

来ない山形。それは”来れなかった”のか。

集散が自在でパスコースを絞らせない熊本。前節、北嶋が「相手のプレスの矢印をそぐようなパスやポジション取りなどができるようになっていかないといけない」と指摘した課題に対して、すでに少しづつ答えを出しているような、そんな気がするシーンでした。

「ボールを保持はするものの、最後のフィニッシュまで行けてなかったというのが今日の一番の反省点じゃないかなと思います」と、敗将・奥野監督は言う。「相手(熊本)がそうさせないような守備を組織的に、しっかりブロックを作ってプレスをかけてきたというのもひとつありますし、そこで最後のところまで崩しきれずに、最後の精度が高められなかった」と。

山形は、林という高さと、中島という機動力と、ブランキーニョという技量を前線に持ちながら、しかしブランキーニョが左サイドから中に絞り、右に流れ、最後は前線に上がる(上げる?)など、彼の”使い方”が空回りしている様に見えました。何をさせたいのか分からないというべきか。技量のある”個”がフィットしないとき、チームは機能しないということをまた教えられる。

一方で、スカパーのこの日の解説者:越智氏の分析は非常に明快でした。アナウンサーに、「サイドやシャドーも務める武富の適正のポジションは?」と問われていわく、「どこかと決める必要はないのでは。いい意味で”形”がない。どのポジションに入っても技術が発揮できる選手」という答えには、おもわず膝を打ちました。そして越智氏はこうも付け加えました。「ただこの選手は、ゴールを狙えるポジションにいるべきだろう」と。

「北嶋の穴を埋めるのが武富の役目ではない」とも越智氏は言う。全くタイプの違う選手なのだからと。北嶋がそのポジションを脅かされるのではなく、武富にこの北嶋が加えられることで、相乗効果、化学反応が期待できるだろうと。ただ、残念ながら北嶋の長期離脱で、この両雄が揃ってピッチに立つ試合は、もうそんなに見られないのかも知れませんが。

チームの記録としてはJ昇格後、初めての4連勝。しかし、なんとなくその感激よりも、この完璧な試合内容の感動のほうが上回ってしまいました。ここにきて大きな上積みを実感した喜びというべきか。

この勢いを持続すべく、チームはそのまま仙台に入り、10日の天皇杯を迎えます。この遠い敵地で行われる試合に関しては、久しぶりに何の映像も見ることができそうにありません。なんとも残念です。それが天皇杯なのだと承知しつつも・・・。

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