9月6日(土) 2014 J2リーグ戦 第30節
大分 0 - 1 熊本 (19:03/大銀ド/20,636人)
得点者:80' アンデルソン(熊本)


「総力戦」と銘打たれた年に一度のホーム大分の大イベント。今日のバトルオブ九州、たまたまでしょうが、そのタイミングに重なってしまいました。2万人以上が埋め尽くした大銀スタジアム。”隣町”とあって、熊本からも多くのサポーターがゴール裏を赤で埋めたものの、騒然としたその雰囲気に、ベンチからの指示は全くピッチ上の選手には伝わらないような状況でした。

ここまでの大分との対戦成績は2勝5分。たしかに負けなし。悪い印象はないにしても、相性がいいという印象もない。なにか勝ちきれない、決着がついてない感じとでもいうのか。それは、過去のスコアが物語る。新しいほうから言えば、1-1、2-1、0-0、2-1、2-2、1-1、0-0。どれもロースコアで勝ちゲームも一点差という状況。全く互角だとも言えました。

そして、大分のここ5戦は、天皇杯で鳥栖に黒星を喫した以外は、リーグ戦負けなし。大宮から補強した新加入のハイタワー・FWラドンチッチが、得点源になっている。

20140906大分

ゲーム序盤、やはりラドンチッチにボールを集め、攻め込む大分。前節、札幌戦である意味“高さ”に屈した部分もあった熊本。今日は、さらに高く屈強な大分の前線のターゲットに加え、「威圧感を感じた」(小野監督)というアウェイ2万人の大声援。「プレスに行く前に前線に送られ、セカンドボールを拾われてしまいました。」(小野監督)という大分の戦術もあって、ちょっと浮足立った熊本の立ち上がりでした。

しかし前半20分頃、仲間がPA内でドリブル。一人交わして、この日チーム最初のシュートを打ったあたりから、徐々に落ち着きを見せ始めた熊本。その後何度も大分ゴールを脅かし始めます。ただ、決定機には至らず。尻上がりに熊本優勢という印象で前半が終了。

そしてハーフタイムを挟んで戦局は大きく熊本に傾いていきますが、この間の戦術的な分析で両監督の見立ては完全に符号しています。

小野監督は、「ラドンチッチ選手はJ1、J2を含めて、あの高さは圧倒的」と見ていました。その対策として指揮官は、「高さで対抗するために背の高い選手を並べる」のではなく、「サイドバックを高い位置に上げボールを動かし、相手にボールを入れさせない」という方策を選びました。そして、「純粋に高さで勝負するよりそっち(ボールを動かす方)で対抗できるメンバーを選びました」という。

対する大分・田坂監督。「…センターバックの間にボランチを入れ、サイドバックを上げて押し込まれました。前半からその傾向はあったのですが、後半はもっと積極的に来た。」「相手と同じようにサイドバックを上げてミスマッチを作れば良かったのだが。そこに差が出たのだと思います」と言う。

ここに、この試合の勝敗を分けた戦術の”分水嶺”があったようです。

大分はあくまで、ここまで得点を量産したラドンチッチにボールを集める戦術に固執しました。確かにラドンチッチは、その高さから前線でボールを落とせる。けれど、そのパフォーマンスには、徐々に翳りが。しかし、大分はあくまで固執しました。

それに対して熊本は、小野監督がハーフタイムに、「ロングボールを競る選手とセカンドボールを拾う選手の修正をし、ハイボールに対して怖がらないように」指示した。

「サッカーは90分で様々な場面の中でプレーの選択が必要ですが、今日は90分間同じペースでやってしまった」とも反省する坂田監督。指揮官の意識と、ピッチ上の選手と、イメージが少し違っていたのかなと思わせるコメントですね。

スカパー解説も今日の養父のパフォーマンスを絶賛していましたが、われわれから見ても、中盤の底からトップ下まで、自在に動き回り、ワイドなボールの配球は今日の熊本の戦術を体現していました。ここまで自由を与えられることはあまりないのだけれど、と思っていましたが…。「ウチはある程度セットして守るのでボランチが空く。」と大分・高木和道選手が言うように、後半は熊本が大分陣内を脅かす時間が増えていきました。

前節、札幌の高さに完敗した熊本のDF陣。都倉に対していいところなくやられてしまった橋本。今日のラドンチッチをどう封じていくのか、相当な覚悟で臨んだに違いありません。先の小野監督の指示通り、ある時は厳しくからだを当て、競り負けてもセカンドを予測した連携でほとんど仕事をさせませんでした。

後半に入ると、熊本のプレッシャーはさらに激しさを増していく。大分の選手のプレーに少し嫌がっているような素振りが感じられる。

しかし、ほぼ主導権を握り続けるが、幾度も訪れる決定機を決めきれず。大分のゴールをこじ開けることができない。さすがに誰もが嫌な雰囲気を感じはじめた80分。今日の基本戦術の集大成のような展開。大迫に代わって入ったばかりの黒木が、高柳からもらったパスを中に入れる。齊藤のヘッドがミートせず。DFからの跳ね返りを、養父が拾ってミドルで撃った。これには大分・GK武田も弾くほかなく、それを見逃さなかったアンデルソンが、瞬間押し込む。熊本が先制。アンデルソンはチーム加入後二試合目、初先発で貴重な決勝ゴールを奪います。

1点リードで残り10分。さて、多分、本当の勝負所はここから。熊本のファンなら誰もがそう思ったでしょう。これまでこんな展開でどれだけ勝ち点を逃してきたことか…。大分は完全に足の止まったラドンチッチを引っ張り、さらには高松を投入してさらにパワープレーを前面に押し出してきます。

ただし、今日に限っては流れのなかではチームの意思は整理されているようで、そこに危うさは感じませんでした。「これまでリードすると下がって起点を作らせたのですが、最後までプレッシャーをかけ、ボールをつないだ選手に感謝したいです」(小野監督)。「リードしてからも守りに入らず、それまでの流れのまま行けたことも良かったし、最後の方は皆が体を張っていた。キツい中でもすぐ切り替えて戻ってきてくれたので、自分としてはやられる気はしなかった」(畑実)。

しかし、それでもセットプレーのピンチは避けられず、最後のワンプレーが相手のCKなった場面は、小心者と笑われるかもしれませんが、“ああ、やっぱりやられたな…”と目をつぶってしまいました。

さて、アンデルソン。初得点より何より。こんなことで驚いてはいけないのですが。32歳のブラジル人FW。20チーム以上を渡り歩いた百戦錬磨のベテラン。Jリーグでは36点目となる得点を、この日、熊本の歴史に刻みました。「今日の試合では起点になり、後半はクリアボールをおさめ、踏ん張ってくれました」(小野監督)と、チーム戦術に忠実に、それも時間を追うごとに、終盤になってさらに、前線からの守備に献身しました。

本人も「ここまで、チームのスタイルに自分を合わせるのに時間がかかった」「チーム全体がハードワークできたし…」「これからもトレーニングからハードワークを続けるのが大事なことだと思う」と。

結局、その高さということもあって、90分フル出場してしまいました。まだまだ、連携という点では噛み合わない場面のほうが目立ちましたが、間違いなく前線に1枚、強力なカードが加わりましたね。

今日のゲーム。チームの基本戦術で押していくのか、それともまずは相手の高さ対応なのかという選択のなかで、基本戦術をこれまでにないくらい徹底し、それによって相手の高さという強味までも消し去ろうというゲームプランで臨んだ熊本。

実際の超大型FWの迫力は想像以上でしたが、足が止まるのも早かった。「ラドンチッチは守りがおろそか」(橋本)との見切りもあり、高さ以外の武器で無力化することに成功しました。

“戦術がはまった”とかいう表現では語り尽くせない、熊本にとっては、まさに今日の「総力戦」のタイトル通り、知恵も体力もすべて出し尽くしてもぎ取った勝利のようで…。リーグ戦も終盤に差し掛かります。順位はこの勝利でふたつ上げ16位となりました。こうやって毎試合が今シーズンのベストゲームに思えるような、そんな流れになっていけば、嬉しいですね。

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