【天皇杯2回戦】(うまスタ)
熊本 1-0(前半0-0)鳥取
<得点者>
[熊]嶋田慎太郎(88分)
<警告>
[熊]嶋田慎太郎(80分)
観衆:1,520人
主審:吉田哲朗
副審:作本貴典、権田智久


このブログでは「値千金」などというあまりに常套句すぎる表現は気恥ずかしくて使ってこなかったつもり。そう思っていたのですが、遡ってみると過去12試合のエントリーで使っていました(汗)。しかも1-0の試合ばかりか、打ち合いや同点弾についても使ってる使ってる(笑)。

しかし、この試合、嶋田の決勝の1点は易きに流れたわけではなく、心底「値千金」と思った次第です。

鳥取との公式戦は、実に2013年の8月以来でした。あの年熊本は初めてシーズン途中で監督を解任、池谷体制で降格圏脱出にもがいていた。思えばあのシーズンは、鳥取とのホーム開幕戦、後半43分に痛恨の逆転弾を喫して敗戦。波乱の一年を暗示するような不安なスタートだったことを思い出します。結果的にはその年、J3に降格したのがその鳥取だったのですが。

もちろんあの頃からはお互いにメンバーも大きく入れ替わって、当時のことを知る選手も少なくなっているでしょうが。現在は松波監督が指揮し、この時点でJ3リーグ7位。どんなサッカーをするものやら。以前から決して相性のいい相手だったという印象はなく、少し不気味な気持ちで試合開始のホイッスルを待ちました。

熊本は1回戦からメンバーをいじってきました。GKはシュミット・ダニエル、CBにクォン・ハンジン、2列目左には中山、2トップの一角に平繁を投入してきました。上村とユース米原の若いボランチコンビは今回もそのまま使ってきます。

20150909鳥取

決して引いて守るわけではない鳥取。サイドを起点にしたい熊本の狙いは、サイドハーフが下がって5バックになることによってスペースを潰される。あるいは出足のよいディフェンスで蓋をされる。短いパス回しを封じられた熊本は、勢いロングボールが主体になる。試合後、「序盤は練習よりもロングボールが多かった」(熊日)と平繁が振り返るように、これでは彼も活きてこない。

「プラン通りには入れた」(九州J-PARK)という松波監督。攻守の切り替えも早く、攻めては縦にシンプルに走らせる。守りとなるやきっちり5バックをセットする。攻撃のスピードを封じられた熊本は、ミスから奪われると30分以降は防戦一方。クリア一辺倒になります。

これは後半、相当のテコ入れが必要だぞと思わせたハーフタイムでした。鳥取のちょっと変則的とも言えるシステムにどう対処するのか。相手守備の数的優位に対してどう対処するのか…。小野監督著の「サッカー・スカウティングレポート」の一文が思い出されました。

「1人を余らせる、つまりプラス1にするためには、どこかをマイナス1にしなければなりません。こここはフリーにしても構わないという選手なり、ポジションなり、あるいはエリアなりを決めるのです。当然、弱みのマイナス1の部分を相手に気づかれるとまずい。だから、いかに相手をだますか。私たちはその工夫のことを『砂をまぶす』と言います。」(サッカー・スカウティングレポートから)

対戦相手のその”まぶした砂”を払いのける。ハーフタイムで指揮官は、「ボランチが顔を出した時に相手がどういう状況になっているかというのを少し話しました」。「相手が勢いよく来ると、空いている部分がピッチレベルで簡単に見つけられない場合もあるので、こうなった場合は必ずここが空いているというのを少し整理して伝えました」(九州J-PARK)。ここらあたりの指示に、”スカウティングの小野”の真骨頂があったのではないでしょうか。

迎えた後半。「平繁が決して悪かったわけではない」と言いながらも、58分に指揮官が齊藤を送り出すと、熊本へ少しずつ流れが傾いてくる。鳥取DFも、このFWはハイボールに競る、ボディコンタクトを厭わない、ちょっと面倒だ。嫌だな。と感じているようで。

大きなサイドチェンジに嶋田が追いついてバックパス。上原がエリア内で切り替えして撃ったシュートは枠の右外。ダニエルからのロングフィードに中山から黒木。右サイドえぐってクロス。ダイナミックな攻撃で、鳥取を少し慌てさせ始め、後ろに走らせるシーンが増えてきます。

一歩ずつ。少しずつ。熊本が手繰り寄せているような気もする勝機。しかし、最後のところのパスが甘く、単純なクロスでは中は厚い。膠着状態は続く。このまま延長戦に突入かとも思わせました。

中山に代えて岡本。清武を2列目に下げて岡本をトップ下に。さらにかき回すと…。

黒木が右から入れたアーリークロス。鳥取DFが処理できずPA内でバウンドさせてしまう。詰める熊本の選手たち。競ったDFがゴールライン際にクリアしようとヘディング。しかしそれが小さい。その着地点を狙っていたのは嶋田。ゴールライン際、角度のないところでしたが、それでも得意の左足を一閃。われわれの席からは、サイドネットだと見えました。しかしボールは「強い球を蹴られたら、相手に当たって入るはず」(熊日)という嶋田の狙いどおり、ゴールネットを揺らします。

時間にして試合終了間際の88分でした。アディッショナルタイム3分を加えても、あと5分しか残っていなかった。がっくりと膝を折ったのは鳥取の選手たち。そして松波監督。崩れたゲームプラン。

「天皇杯に関しては(延長を含めた)120分を想定しなければいけない」と言ったのは小野監督。鳥取は、想定通り、相変わらのしぶとい相手でした。だから齊藤を温存し、ぎりぎりまで投入を待った。中3日で次のリーグ戦を迎える日程のなかで、選手たちの消耗を最低限に抑えたかった。

嶋田の試合終了間際での得点は、その勝敗を決する”決勝点”という意味だけでなく、90分で決着をつけたという意味で、チームの”体力”に与えた価値も”値千金”でした。そして、1回戦では田中、この試合では嶋田。若いアタッカー陣が貴重な得点を決めて、熊本が天皇杯の駒を進めた意味もまた大きなものとなりました。

次は3回戦。対する相手は小野監督含め、多くの選手と因縁深い広島。「個人的には一緒にやっていた選手がまだいますし、非常に楽しみな対戦であることは間違いないです」。静かな指揮官にしては珍しく、次戦への意欲をコメントしました。この天皇杯というレギュレーションをよく知る監督は、おそらく一泡拭かせるどころか、ジャイアントキリングをきっと狙っているはず。抑えた口調ですがそんな隠れた闘志を感じるのはわれわれだけではないでしょう。

同じ2013年の天皇杯3回戦。あの時は点差以上の完敗でしたが、今どこまで詰められたのか。ファンにとっても非常に楽しみな対戦といえます。しかし残念ながら、10月14日平日の水曜日の夜。しがないサラリーマンのわれわれは、現地観戦が叶わないことも、予めお断りしておきます。遠く広島に念を送ります。勝利を!

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