【J2第13節】(フクアリ)
千葉 2-0(前半0-0)熊本
<得点者>
[千]町田也真人2(56分、74分)
<警告>
[千]近藤直也(34分)、長澤和輝(71分)
[熊]園田拓也(48分)、上村周平(85分)
観衆:14,163人


5月15日(日)。熊本の歴史にまたひとつ刻まれるであろう試合。16時きっかり。その開始を告げる笛が千葉のホーム・フクアリで高らかに鳴り響きました。それは、平成28年熊本地震によって、ちょうど一か月間、5試合を戦うことができなかった熊本にとってのリーグ復帰戦。“リスタート”を告げる笛でもありました。

サッカー専門紙のエルゴラッソは、この日のために一面から「おかえり熊本」と題した特集を組みました。それに応えるように熊本ゴール裏には「ただいま Jリーグ」という横断幕が掲げられ。試合前のサポーターはインタビューで、「ようやく日常が戻ってきた」(スカパー!)と答えた。そう。ロアッソの試合再開は、徐々に取り戻してきた“日常”のなかのひとつに違いない。ホームチームの試合を毎週末応援するという日常。

思いがけず千葉のサポーターからの野太い「熊本!」コール。それに応えて赤い一角からは「サンキュー!千葉」コールのお返し。もう、涙腺の弱くなったわれわれは既にウルウルです。

インフルエンザ罹患の影響もあったのかも知れませんが、今日熊本のリスタートのメンバーには、昨シーズンの怪我から1年ぶりに復帰した片山の姿も。GKは、益城町で自宅倒壊にみまわれた畑。そして、前線にはやはりこの人が。震災後、避難所への物資配給や子供たちとのサッカー教室などでチームの、いやクラブの”フラッグシップ”ともいえた巻。不思議なめぐりあわせで古巣との対戦となりました。

20160515千葉

「前半は0-0で凌いで、後半勝負」というのが清川監督の描いたゲームプランだったらしい。しかし、ピッチ上の選手たちはスタートからアグレッシブに入ります。一ヵ月ぶりにJリーグの舞台で公式戦を出来る喜びと、被災地への思いが、選手たちの闘争心をかき立てたのでしょう。

巻が前線の空中戦で身を投げ出すように相手と競ると、セカンドボールの回収に平繁が、清武が、岡本が走り、高柳が、上村が相手からボールを奪う。

4分には清武がバイタルで一人交わすとシュート。ディフェンスに入った千葉の近藤に当たり、コースが変わってGKの逆を突きますが、これを千葉GK・佐藤が片手一本残して弾き出す。ファインプレー。惜しい。

熊本のここ5試合のブランクの間、千葉は不調をきたし3引き分け2敗。勝ち点3しか獲得しておらず、この試合ぜひとも勝利が欲しい。徐々にペースを取り戻しますが、フィニッシュに精度を欠き得点まではいきません。熊本・清川監督のプランどおりのスコアレスで前半を終えます。

ただ、「後半勝負」。しかしそれは今の熊本にとって、厳しいゲームプランでもありました。1ヵ月に及ぶブランク。わずか2週間での調整。その間90分間の練習試合は一度だけ。その試合も一人45分だけの出場で、あとは紅白戦だけという状態には清川監督も「シーズン前のキャンプを見ているような」(スカパー!)と言っていた。

しかし、決してそれを「言い訳にはしたくない」と誓った選手たちですが、前エントリーで手倉森氏の「今回は彼ら(熊本)しか中断していない」という言葉を借りて心配したとおり、フィジカルコンディションの差は歴然でした。これほどまでのものなのか。いやもはや、コンディションという言葉が適切でもないような。彼らを突き動かしているのは、ただただ被災地・熊本の人たちに応えたいという気持ちだけだったような。そんな悲痛な感じさえしました。

組織的な守備が後手後手に回ると、選手間のスペースが空いて、千葉に思い通りに崩される。大きなサイドチェンジにスライドが追いつかない。

56分、前線で潰され奪われると、すぐさま千葉に右サイドを持ち込まれる。サイドチェンジぎみのアーリークロス。左サイドで拾った船山がシュート。ブロックするものの、そのこぼれ球に抜け出したのは町田。シュートはゴールに突き刺さります。失点。

熊本は平繁を下げて齋藤。岡本に代えて嶋田。なんとか攻勢を試みる。しかし、ボディコンタクトの度に体力が奪われる。追いつけないパスが送られる度に息が上がる。連携にも難がありました。

74分のゴールキック。畑が味方の上がりを待ち、的確なフィードを狙ってキックに時間を掛けようとしていた一瞬でした。千葉の町田が、そのほんの瞬間を見逃さずきびすを返して畑に襲い掛かる。畑のキックを身体でカットすると、そのままねじ込むようにゴールにします。追加点で突き放した千葉。町田ひとりの2得点。差は広がった。GK畑、痛恨のミスでした。

もう誰にぶつけることもできないような。”絶望感”さえ漂うそのとき。真っ先に畑に駆け寄ったのは巻でした。畑に言った。

「下を向くな。前を向いて行こう。俺たちが助ける」。

ほかの選手たちも駆け寄る。もう一度、やり直せる。
それはまるで、巻が避難所に物資を届けながら被災者に寄せていた思いと同じ。熊本の被災地へのメッセージと同じ。

79分、中盤でインターセプトした高柳からのカウンター。左サイドのスペースに絶妙のパス。好機。しかし清武がそのボールに追いつけない。既にその足は痙攣していました。

熊本は巻に代えてアンデルソンを2列目に入れ、清武と齋藤の2トップ。必死の戦いに、千葉も攻撃を終えて猛烈にダッシュして守備に戻らなければならない体力戦の様相。

アディッショナルタイムは5分。千葉は時間を使い始め、熊本には奪う力が残されていない。右サイド嶋田が、SB藏川を追い越させ、エンドラインぎりぎりからのクロス。中央でクリアされるこぼれ球を嶋田が左足で撃ちましたが枠の右に反れる。そして終了の笛を聞きました。

熊本のリーグ復帰戦は勝利では飾れませんでした。ゴール裏は「バモ!ロッソ男ならば、見せてくれ」とチャントを歌い続けた。それは、昨シーズンのあの最下位にもがいていた頃に、ただただ試合中ひとつだけ歌い続けたチャントでした。

熊本イレブンが熊本ゴール裏に挨拶に集まった後ろに、なんと千葉のイレブンの姿もありました。被災地から来たサポーターへのリスペクトを表して、挨拶に来てくれました。

熊本の選手たちはそのあとも、被災地熊本への支援を感謝するメッセージの書いた横断幕を掲げて場内を一周しました。それに対して、在籍当時の背番号18の巻のユニフォームを掲げて、「がんばれ熊本」コールを送る古参の千葉サポーターの姿も多数あり。そして、そのシーンを見て、熊本のゴール裏もまた泣いていた。

被災地・熊本のリーグ復帰戦という、ある意味難しい試合の相手として向き合ってくれた千葉。1万4千人という今シーズン最高の動員数で迎えてくれ、この環境を演出し、そして温かく激励してくれたことに感謝です。

もちろんチーム自身も、決して手加減などなく、ナイスゲームを創出してくれました。ありがとう千葉。あなた方が復帰戦の相手で、本当によかった。

巻は試合後のインタビューでこう答えました。
「熊本の人たちのために勝ち点1でも届けたかったのだが、結果は思い通りに行かなかった。けれど誰一人として諦めずにボールを追いかけたし、ひたむきに走っていたし、ゴールを目指していた。そういう思いは少なくとも(被災地の人々に)届けられたのではないかなと思います」と。

前節のエントリーで、「決して選手たちに、『復興のシンボル』のような”重責”を背負わせるわけにはいかない」と書きました。

今回、それを補足するとするなら、冒頭書いたように、ロアッソの試合の復活が日常の復旧のひとつという広い意味では「復興のシンボル」ともいえるかも知れない。物指しというような意味では。

しかし、ゴール裏のサポーターがインタビューに答えていたように、「選手たちは同じ被災者のはずなのに、ボランティアとして被災地を回り、自分たちに勇気を与えてくれた。今度はわれわれがサポーターとして後押しすることで彼らに少しでも元気を与えたい」。それが、われわれが、言いたかった気持ち全くそのままでした。

次節は柏でのホーム戦。リーグ戦復帰は叶ったものの、ホームスタジアムうまスタは使えず、しばらくは遠征が続きます。更には中断の間の試合の再設定による過密日程。

いずれにしても厳しい戦いが待っています。しかしそれを後押しすることが、震災と戦うことと同義なのだと思う今日の戦いでした。

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